縁あってトンボ楽器製作所の鍵盤ハーモニカ、ピアノホーン PH-27を入手しました。
トンボ楽器製作所は現在、鍵盤ハーモニカの製造を行なっておらず廃盤商品の鍵盤ハーモニカです。
まずは解体してメンテナンスの様子を残しておこうと思っていたのですが、この楽器の出立ちから推測していく歴史はあまりにも魅力的で、解体する前に書き留めたいことが沢山あったので、この記事ではトンボ楽器製作所 ピアノホーンの歴史や楽器の特徴などを書いておきます。
トンボ ピアノホーンの製造・販売時期
トンボ楽器製作所が鍵盤ハーモニカを製造・販売していた時期の詳細はメーカー自身が把握しておらず、最近まで不明でした。
しかし、鍵盤ハーモニカ研究者のピアノニマスさんの研究により、トンボ ピアノホーンは1960年代を中心に開発・製造が行われていたことが判明しはじめました。
手元に届いたピアノホーンも製造年数などがはっきりと確認できなかったのですが、付属している説明書を確認すると、メインの住所は埼玉県戸田市になっており、ショールームが東京都荒川区西日暮里5丁目になっています。
トンボ楽器製作所の沿革を確認したところ、東京西日暮里5丁目にショールームを開設したのが1975年、西日暮里2丁目に本社・営業・ショールームを統合したのが1990年なので、1975年以降から1980年代後半に販売された物ではないかと推測します。
しかし、ここで疑問が生まれました。
トンボ ピアノホーンは1960年代には鍵盤ハーモニカの生産を取りやめているのです。
トンボ楽器はどうやら早々に(遅くとも1963年6月の時点で)鍵盤ハーモニカの生産を取りやめてしまったようです。
半地下の鍵盤ハーモニカ アルス・ピヤニカ――鍵盤ハーモニカの楽堂 南川朱生(ピアノニマス)
記事の続きにもあるように、トンボ楽器製作所はOEMとして楽器の製造を請け負って販売を問屋(表向きには楽器メーカー)に販売してもらう目的でピアノホーンの生産を行なっていたようです。
このため、楽器本体は1960年代にトンボ楽器が製造したもので、付属品の説明書やケースなどについては販売時期(1975年以降)にセットされたものではないかと考えています。
型番 PH-27? TP-27? 本体刻印と販売品番の相違
今回入手したピアノホーンは雑貨と音楽の店ピカントさんで販売されていたもので、楽器店の閉店で見つかった未使用のデッドストック商品です。
現在も残りわずかですが販売されています。
お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、ピカントさんの販売ページには「ピアノホーン TP-27」と記載されています。
同じ商品ページより購入していますが、届いた本体には「no.PH-27」の刻印があります。
そして付属している説明書にはPH-32、TP-27S、TP-27Aの型番が記載されていますが、PH-27は記載されていません。
楽器本体の型番と説明書の型番が一致していない事から、先にも書いた説明書の後入れが濃厚になってきました。
もしくは、長年楽器店で眠っていたデッドストックのため、検品や展示など様々な理由で本体と付属品が入れ替わっている場合があるかもしれません。
トンボ楽器 ピアノホーンの特徴
まず楽器をケースから取り出して気づいた衝撃的な特徴が、これ。
唾抜きレバー(ボタン)がない
古い鍵盤ハーモニカを手にしたことがなかったので、かなりの衝撃を受けたのですが、拭き口しか穴がありません。
説明書にも「唾抜きのボタンはありません」としっかり記載されています。
この書き方だと、鍵盤ハーモニカには唾抜きボタンが搭載されているのが従来の形として認識されているようなので、やはり説明書は後入れではないかと推測されます。
しかし、「従来の唾出機構よりも良く唾が出て来ます。」の一文も記載されています。
ということは、これより前の型には吹き口以外に唾を抜く部分があったということになります。
同じくトンボ ピアノホーン PH-27を所有されているピアノニマスさんの解体記事を確認すると、以下のような記載があります。
唾抜きはゴム栓のようなものを差し込んでいるだけの簡単な構造です。
トンボ楽器製「ピアノホーン(PH-27)を解体しました - 鍵盤ハーモニカ奏者ピアノニマス公式ブログ~日本最大級の鍵盤ハーモニカ情報サイト~
ピアノニマスさんのピアノホーンには唾抜きパーツが付いている事から、今回私が入手したピアノホーンはこれより後に製造された物のようです。
鍵盤のタッチは浅め
見るからにわかるのですが、鍵盤の押し込み距離が短いです。
子供の弱い力でも押せるように作ってあるのかな?と思うようなタッチ感です。
とてもかわいらしくて大好きなタッチです。
唄口のロングホースがセパレートタイプ
唄口は立奏用のショートマウスピースと卓奏用のロングホースが付属しています。
このロングホースが2つに分かれるんですよ。
普段から、ロングホースはハーフサイズが欲しいと願っている私には、まさに理想の形ではありますが、口を咥える側のホースの付け根はピアノホーン本体には接続できません。
しかしこの形、現行メーカーさんで出て欲しい。(私しか買わないかもしれませんが。)
特徴的なのは、ショートとロングでは加える部分の大きさが全然違うんですよね。
ショートは大きめ、ロングは小さめ。
立奏は高学年で卓奏は低学年を意識しているのでしょうか。
マウスピースの形についても、ピアノニマスさん所有のピアノホーンとは全く異なっています。
「素晴らしき鍵盤ハーモニカの世界」 で紹介されているトンボ楽器 ピアノホーンも、形はピアノニマスさん所有の物に近いですね。
奏法や用法が楽器として本格的に想定してある
説明書を見ていると、「ピアノホーンの吹き方」という項目に、学校で習うようなタンギングとは別に、さらりとビブラートの説明や、ダブルタンギング、ジャングル奏法(フラッター)、マンドリン奏法などの説明があります。
見開き隣のページには「ピアノホーンの用法」のページもあるのですが、リード合奏以外にジャズバンド、ブラスバンド、オーケストラなど様々なシーンでの合奏を提案しています。
教育楽器としてだけではなく、これからの音楽シーンで活躍する楽器として注目されていた頃の時代に作成された説明書なのかなと、なかなか感慨深い物がありました。
トンボ楽器 ピアノホーンを実際に演奏してみた
なかなか謎の楽器だったため、楽器についての説明や感想が長くなってしまいました。
この後に行なった解体とメンテナンスはまた後日、別の記事にて紹介します。
未使用のデッドストック品とはいえ、長年倉庫に眠っていたため若干カビ臭があり、中も確認・清掃を行わないと口をつける自信はないので音を出す前に開腹しています。
メンテナンス後に、トンボ楽器ということで、日本の名曲「赤とんぼ」を弾いてみました。
以前、朧月夜の多重録音でも紹介した、クッキーハウス制作「奇跡の器楽アンサンブルになるシリーズ」に収録されている「赤とんぼ」をソロ片手弾き用にアレンジして弾いています。
極上のピアノ伴奏はクッキーハウス 杉本徹さんです。
音を聞いてお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、とくに低音の立ち上がりが遅めなのです。
クッキーハウスのツネお兄さんこと、小西 恒夫さんからも「昔の鍵ハモって、(ざっくり過ぎですが)低音が「ふんわぁ」と出るのが多いですよね。でも今の鍵ハモより(気持ちの問題かもしれませんが)味のある音がする気がします。」とコメントをいただきました。
まさにその通りで、演奏していると「あ、この感覚はあれだ!」と気付いたことがります。
ピアノホーンはバスメロディオンの感覚に非常に近いのです。
あのバス特有の、時々高音からの飛躍で低音を出そうとすると音が鳴らない感じもあります。
そして出しにくい低音は、バスメロで音を出す感覚で演奏すると音が鳴るんですよね。
バスメロディオンの粘りのある音の出方が私は大好きで、上記でも紹介した「多重録音に関する気づきと鍵盤ハーモニカで他の楽器の音への表現」という記事にも紹介している、ひとり大迷惑の動画では、メロディライン(歌部分)をわざとバスメロのピッチをオクターブ上に加工して弾いている部分があります。
この表現をピアノホーンなら生音のままで出来るんじゃないかなと期待しています。
書きたいことが色々ありすぎて長くなってしまいましたが、次回はいよいよ解体メンテナンスの記事を書く予定ですので、開腹ファンの方はお楽しみに。